2021-01-01から1年間の記事一覧

天皇制と日本語

生来の日本語話者の一群が一群のレベルで折に触れて表出する日本語への異和感は、「いいたいことがうまくいえない」といった言語表現をめぐる普遍的な問題とはおよそ異質なものである。言語が言語であることに由来する、この手のありふれた不満は、その突き…

解釈の独善性について(3)

さて、桜庭一樹氏は②の記事に掲載された見解の冒頭で次のように断言している。 私の自伝的な小説『少女を埋める』には、主人公の母が病に伏せる父を献身的に看病し、夫婦が深く愛し合っていたことが描かれています。 ここを読み、大きく分けて二つのことを思…

解釈の独善性について(2)

前回の続きなのだが、この問題についてこのようにしつこく書くのには二つの理由がある。ひとつは、小説家の桜庭一樹氏と文芸評論家の鴻巣友季子氏との間にこのほど持ち上がった対立は、たんに両者の対立というにとどまらない、日本近代小説の根幹に触れる大…

解釈の独善性について

小説家の桜庭一樹氏が8月25日付朝日新聞朝刊に掲載された文芸時評(以下①と呼ぶ)中、自作「少女を埋める」(文學界9月号)への評に異議を唱えている。私は評者である鴻巣友季子氏が提示した作品の読み方、また、9月7日付朝日新聞朝刊文化欄の記事「本紙『文…

フランス語の節連鎖の例/日本人の声の一番古い録音

前回、フランス語の絶対分詞節の中には「節連鎖」(clause chaining)的に解釈できるものがあると指摘する仏語論文について触れた際、「絶対分詞節をいくつも連ねて文をだらだら続ける」のは「難しそう」と書いたけれど、そういうの、見つけてしまったので、…

折口信夫『死者の書』冒頭部に見る計算について(フランス語の節連鎖についても少々)

折口信夫の小説『死者の書』の出だしの言葉は絶妙に気持ちが悪い。 彼の人の眠りは、徐かに覚めて行つた。まつ黒い夜の中に、更に冷え圧するものゝ澱んでゐるなかに、目のあいて来るのを、覚えたのである。 した した した。耳に伝ふやうに来るのは、水の垂…