フランス語の節連鎖の例/日本人の声の一番古い録音

 

前回、フランス語の絶対分詞節の中には「節連鎖」(clause chaining)的に解釈できるものがあると指摘する仏語論文について触れた際、「絶対分詞節をいくつも連ねて文をだらだら続ける」のは「難しそう」と書いたけれど、そういうの、見つけてしまったので、メモとしてここに残します。

これです。

Le mécanisme du phonographe étant bien huilé, la vitesse de rotation étant calculée chaque jour à 120 tours à la minute, le cylindre étant bien calé sur le mandrin, [...] le diaphragme enregistreur étant situé à environ 3/4 de centimètre de l'extrémité gauche du cylindre, on lâche le déclic, et au bout de 2 ou 3 révolutions on fait signe au sujet de parler ou chanter.

フォノグラフは機構部にしっかりと注油し、回転速度が毎分120回になるよう毎日調節し、蝋管を回転軸にきちんと装着し、(中略)録音用振動板を蝋管の左端から約3/4センチの位置にセットし、スイッチを入れる。二三回転させた後、話し手ないし歌い手にキューを出す。

(L. Azoulay,  « Sur la manière dont a été constitué le musée phonographique de la Société d'Anthropologie »、太字と下線は引用者)

フォノグラフ(蝋管式蓄音機)の録音手順について説明する文。「étant」を使った絶対分詞節が4つ続いた後ようやく主節(on lâche)が出てくる。日本語に見られるようなダイナミックな(?)節連鎖とは少し印象が違うかもしれない。でも主節に埋め込まれてない節(predication)が宙吊り状態で連なっており、まぎれもなく節連鎖。

ところで原文のテキスト(「人類学会の録音博物館の設立がなされた方法について」)はレオン・アズレーという人が1901年にパリ人類学会で行った報告。この人は、1900年のパリ万博の際、世界各国からの来場者の声(会話や歌、民話、ルカ福音書の放蕩息子のくだりの朗読等)をフォノグラフで録音してアーカイブを作ろうと考え、実行した。中には日本人のものもあって、日本人の声の録音記録として現存最古のものだと言われている。 

詳しくはこちらを参照(論文中、日本人の録音年が「1901年」になっているが「1900年」の誤りだと思われる)。

日本語の録音資料(14点ある)はここで聞ける。

アズレーは非母語話者が発音するフランス語や英語もずいぶん録音したそうで、日本人の発音はへんてこで面白いと語っているけれど、その資料は含まれていないようだ。ちなみに人見一太郎の記録票を見るとフランス語が上手とあった。