2013-01-01から1年間の記事一覧

二人称小説とは何か――藤野可織『爪と目』とミシェル・ビュトール『心変わり』(追記あり)

※ネタバレ注意。以下の文章には藤野可織『爪と目』とミシェル・ビュトール『心変わり』の核心に触れた記述があります。 二人称小説のことが気になりだしたのは、文藝春秋九月号で藤野可織の芥川賞受賞作『爪と目』とその選評を読んだからだ。これを読んで、…

「He is sad」と言えても「彼は悲しい」と言えないことをめぐって

「私は悲しい」と言えるのに「彼は悲しい」とは言えない。なぜか。彼の気持ちは彼にしかわからないからだ。その通りだが、でも英語では「He is sad.」と難なく言えるのだ。どういうわけだろう。いくつかの考え方がある。 たとえば「悲しい」と言う単語は、英…

フランス法の「既判力」について

「autorité de la chose jugée」は、よく「既判力」と訳されるけれど、日本の法学でいう「既判力」概念とはいろいろ違いがあるようで、注意が必要。調べたことをメモしておきます。 まず日本の「既判力」の定義を確認する。有斐閣法律用語辞典(第3版)にこ…

川端康成の本当

続きです。川端康成の「十六歳の日記」作中日記部分には発表時たんなる字句の訂正を超えた加筆訂正があったのではないか。川嶋至がそう問うたのは、すでに見たように『川端康成の世界』の中である。川嶋はそこで複数の論拠を挙げて、その証明を試みている。…

川端康成の嘘

川端康成が自身の翻訳観・日本語観を披歴した文章に「鳶の舞う西空」という随筆があって、精読したことがある。「『源氏物語』の作者に『紫式部日記』があった方がよいのか、なかった方がよいのか。なくてもよかった、むしろなければよかったと、私は思う時…

「TEMOIN ASSISTE」のこと

たまには実務翻訳者らしい話を。何年か前からフランスのメディアや法律関係のテキストでちらほら見かける言葉に「témoin assisté」というのがあって、刑事手続き上の地位(statut)のひとつなのですが、これ、翻訳する際、毎度すごく悩まされています。とて…

父が息子に語る「運命の乗り換え」

高校生になったMinecraft三昧、FSO2三昧の息子と、ゆうべ「運命の乗り換え」について話した。途中からこちらの説明が錯綜し、自分でもわけがわからなくなってしまったので、そのとき考えたこと、話したかったことを整理するため、書いておこうと思う。「運命…

ベンヤミン「翻訳者の使命」を読みなおす(3)――パンの件

パンのくだりを読みなおす。パンのくだりとは次の部分である。 たしかに〈Brot〉[パンのドイツ語]と〈pain〉[パンのフランス語]において、志向されるものは同一であるが、それを志向する仕方は同一ではない。すなわち、志向する仕方においては、この二つの語…